____________________________________
その戦闘のさなか、
ケルディムに隙が空いた。
アリオスの後継機、アラエルが支援に向かえない状況の中、
ライルことロックオン・ストラトスは敵の攻撃を受けていた。
それでも直撃は避けていた。
それをプトレマイオスのオペレーティングルームから
見ているしかない立場の人物が数名、
正面モニターを固唾をのんで見守っていた。
オペレーター数名、ナターシャ、そしてティエリアである。
彼らは、今まさに目の前で戦闘を繰り広げられている
ガンダムマイスターの子供達も含まれている。
ケルディムが、寸でのんところで躱しきれずに一撃を受けたところで
イシスが砲台から静かに出て行った。
数分後、プトレマイオスのカタパルトデッキから
制止の声を振り切った00の機体が飛び出した。
__________________________________
「うあっ!!!まずい!」
声を上げたライルは自分の機体の一部に大きな一撃を受けたのを知る。
同乗させているAI…ハロから状況が伝えられる。
とてもじゃないが、戦闘を続けれる状況にはなさそうである事は
ライル自身でも判る。そのくらい被害が大きい。
「でも…今は退く訳には…行かないんでね…!」
ケルディムのトリガーを引く手にも衝撃の痕跡があるのか
照準の定まり方が上手く行かない。
自分の息があがっているのが判る。
そんな中でもライルは敵機を撃ち落としていく。
その中、自分以外のビームライフルが敵機を撃ち落とすのが判った。
「?ティエリアか?」
モニター越しの周囲を見回す。
そのモニターすらもいくらかの部分は破損していて
完全に周囲が見えるものではなかった。
それでも、ライルを援護する機体が増えているのが判った。
離れた場所からライフルを撃ち、自分を援護する機体。
ダブルオーガンダム。
「?…だれだ…!?」
「来るぞ!『ロックオン!!』」
「…!?…刹那…?」
今は既にいない人物の名を呼びながら
ライルは言われた声を聞き逃さずに敵機を撃ち落とす。
それでも、敵の圧倒的な数にわずかに敵わない状況に
ケルディムの機体が損傷を受ける。
数機に同時砲撃を食らっていたケルディムに
ダブルオーが近づく。
ダブルオーがその左腕をのばした
その瞬間。
ケルディムの胸部が閃光に貫かれる。
同時に数機から発射されたビームにより
ダブルオーの左手、両足が同じ閃光に消える。
「————!!! 父さん!!!!」
「ライル!!!!」
「ライル!!」
「…イシス!?」
離れたところにいる
イシス、スェウ、アレクセイの声が同調する
イシスのヘルメットにライルの悲鳴が響き渡る。
「…ライル!!ライル!!!」
ロックオン…ライルに向かって
イシスが悲鳴に似た叫び声をあげる。
ザー…ザザ…
ノイズ越しにイシスのヘルメット内の無線に声が聞こえて来た。
ライルのものだ。
「…ぁ…?…刹那…?…なのか…?」
「ライル…」
「あぁ…イシスかぁ…はは…」
「ケルディムの…状況…は…?」
「ぁ…ぁ…状況…?…見て…判るだろ…?
もう…こりゃあ…かなり… ……って。」
「ライル…!今コクピットから出すから!!」
「なぁ…刹那…イシス…『答え』は…見つかったか?」
ライルは覚えていたのだ。
いつか、イシスが「生きる『答え』を探すと言っていた事を。
「…まだ…まだだ。
だから…教えるまで…死ぬな! ライル!!」
「はは…それは… …だ。」
そう言うと、ライルはケルディムの太陽炉をケルディムから射出した。
「ライル!?」
イシスが叫ぶのと同時にケルディムがダブルオーの機体を引き離す。
イシスの乗るダブルオーのモニターからケルディムが離れていく。
「ライル!! ライル!!!
イヤだ!! ライル!!!! 皆待ってるんだ!!帰るんだ!!!」
小さくなっていくケルディムに向かって
上手く動かない機体に残された右腕をのばし
悲鳴の様にイシスはロックオンの名を叫ぶ。
「スェウを…皆を…頼む…
『未来』を… …」
ザーザーというノイズが大きくなってくるライルの声が
息切れしているのが聞き取れる。
ノイズが大きくなったと同時に
離れていく機体から大きく火花が弾けだす。
「父さん!!!!」
「ライル!!!!」
大きくケルディムの機体が爆発するのを
見ているしかなかった彼らは
悲鳴に似た声を…声無き悲鳴を上げるしかなかった。
イシスは、わずかに動くダブルオーのバーニアを駆動させ
ケルディムが『あった』方向へと向かった。
せめて…ライルの身体を。
スェウの為にも。
父さんの為にも。
そのイシスの気持ちが、一瞬の隙を作った。
ダブルオーの胸元から肩先へと
一本のビームライフルが貫いた。
「「…刹那!!!!」」
アレルヤとティエリアが口をついて叫んだのは
イシスの父親のコードネームであった。
__________________________________
トレミーの援護射撃と
敵艦隊のダメージもかなり大きかった事もあり、
ひとまず敵撤退の情報がオペレーターからもたらされた後、
機体回収が行われた。
ケルディムの残骸から取り出した太陽炉。
ダブルオーの機体。
ダブルオーも、
既に『機体』と呼べるのかどうかと言うレベルのダメージであった。
わずかに残る生体反応。
ダブルオーのコクピットからのものだった。
「イシスは!?」
いつも穏やかなアレルヤが滅多に見せない剣幕で
ダブルオーのコクピットをこじ開けた。
ビームサーベルはコクピットの一部をも掠めており、
コクピット内から熱気が溢れた。
そこに…ブルーのパイロットスーツを身にまとった身体が
ぐったりとシートにもたれかかっていた。
アレルヤが息を呑んだ。
「トレミーを月の裏側に向ける。
再生医療班に準備の連絡を!
それと、ミレイナ・ヴァスティにも移動の準備を。」
ティエリアがオペレーティングルームへ連絡をする。
同時にアレルヤがイシスの身体を抱きかかえる様にコクピットから降ろす。
パイロットスーツ越しにも明らかに判る熱さ。
この子の命が消えかけている。
今、この子を死なせたくない。
「…刹那…この子を君のところへ連れて行くのはまだ早いよ。」
アレルヤは祈るような気持ちで呟いた。
____________________________________
トレミー内、メディカルルーム。
カプセルの中に横たわる人物が一人。
イシス・イブラヒム。
かなり高機能なこのカプセルでもなんともならなさそうなその身体は
なんとか鼓動を打っている状態であった。
だが、いつ止まってもおかしくはない状態でもあった。
____________________________________
メディカルルーム前の通路に彼は座り込んでいた。
スェウ・ディランディ。
先程、砲撃によって命を落としたライル・ディランディの息子だ。
そして、アレルヤ・ハプティズムと
その息子であるアレクセイ・ハプティズムもいた。
3人が沈痛な面持ちでいると
目の前のメディカルルームのドアが開いた。
アレルヤ、アレクセイは開いたドアに顔を上げる。
スェウは未だ顔を上げられずにいた。
「…ティエリア…イシスは…?」
アレルヤの声に、ティエリアは3人を見遣り
言葉を切り出した。
「…今、イシス・イブラヒムの心臓が停止した。」

___________________________________
PR