ティエリアは言葉を続ける。
「その時にその名を引き継げるか否かは審査がある。
審査に通らなければ別の人物が
『刹那・F・セイエイ』を名乗る可能性もある事を忘れないでくれ。」
「わかった。」
イシスは神妙に頷く。
「まぁ、お前なら大丈夫な気がするがな。」
苦笑しながらティエリアはイシスを見下す仕草をする。
我ながら昔ではしなかった仕草だと思いながら。
イシスが、む。とした表情を確認したあと
ティエリアはイシスを促す。
「さ、軌道エレベーターに乗らなければ。」
彼一人だけが眠る広大な丘を下ったところで
イシスが声を上げた。
「その前に一つやらなきゃいけない事がある。」
イシスの言葉に予定外の動きが出る。
軌道エレベーターの出発時間と現在時刻を確認しながら
ティエリアは質問する。
「時間がかかるか?」
「いや、すぐ終わる。」
「じゃあ、手早く頼む。」
「…判った。じゃあ今終わらせる。」
言うや否や、イシスが手にしていた携帯端末をいじる。
ーーー瞬間ーーー
今まで自分たちが居た丘から膨大な爆発が起こった。
炎とともに、とてつもない熱量が近づいてくる。
ティエリアはこれを戦場で何度か見た事がある。
「ーーーーナパーム!?」
今まで自分たちがいた場所…そう。
そこは紛れも無く『彼』が眠っていた場所だ。
そこを高温の炎が焼き尽くしている。
傍らにはそれをまっすぐに見つめる娘がいる。
ティエリアは混乱した。
「何故!?何故こんな事を!!自分の父親なんだろう!?」
隣にいるイシスに大人げなく詰め寄った
「父さんからの…最後のお願いなんだ。」
イシスの横顔には涙が浮かんでいる。
それでも気丈にもまっすぐ正面を向きながら
彼女は続けた。
「『俺が死んだ時には、俺が生きていた痕跡を消してくれ。
写真はもとより、骨一本、髪の毛一本に至るまで
消しておいてくれ。
こればかりは自分ではどうしようも出来ないから。』…と。」
「…刹那…」
ティエリアはやりきれない気持ちでかつて肩を並べていた仲間の名前を呟いた。
「あとの始末は頼んであるから。
約束は守ったから…これでいいんだよね?
………とうさん………」
大粒の涙を零し、炎に話しかけている彼女が
今までいかに気丈に振る舞っていたかを伺わせる。
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