家具は据え付けで置いてあったものをそのまま使っているのだろう。
壁と釣り合いの取れた白を基調とした家具が違和感無くそろえられている。
この辺りでは家具付きの賃貸物件は当たり前の様にある。
よくある少し古ぼけたアパルトメントではある。
只…この部屋以外に住人がいないという事を省けば。
「座って。コーヒーくらいは出すよ。」
入り口に立って部屋を見渡しているティエリアに
目の前の子供は声をかけた。
しばらくすると、キッチンのあるであろう方向から
コーヒーの香りとともにその子はやってきた。
「どうぞ」
「ありがとう」
そんな些細な会話の中でもついこの子を凝視している自分がいる。
ティエリアは自分で判ってはいても止める事は出来なかった。
「早速なんだが…刹那…いや、ソラン・イブラヒムは今どこに?」
回りくどく話しても仕方ない。
単刀直入に彼の所在を聞いてみる。
「ソラン・イブラヒムは今ここにはいない。」
口調の素っ気なさも彼そっくりだ。
では、この目の前にいる人物は一体?
「いつ会える?ここで待ってれば帰ってくるかい?」
彼の情報を知らなければ。
今目の前にいるこのこの機嫌を損ねるという事は
『彼』の情報が途切れるという事につながる。
そう思うと口調を努めて穏やかにと気を使う。
「その前に、何故あんたはソラン・イブラヒムに会おうとしているんだ?
内容によっては会わせられない。」
まだ、この子は警戒心を解いてない。
当たり前だろう。
ここから話を進めるには、相手の情報が少なすぎる。
そう感じたティエリアは相手の事を聞き出す方向へ話をずらした。
「こちらが話をする前に、僕は君の事を知らなさすぎる。
それではフェアじゃないね。君の事を少し教えてくれるかな?」
少し微笑みながら、拒絶出来ない様に質問をする。
「…答えられる範囲なら」
立ったまま目の前の子供が答える。
「まずは、君の名前。
僕は、さっき名乗ったよね?ティエリア・アーデだ。」
「…イシス・イブラヒム。」
「イシス…イブラヒム?
刹那…ソランとはどんな関係なんだい?」
確認を取る様に質問を返す。
「ソラン・イブラヒムは、父親だ。」
「じゃあ…君は…刹那…ソラン…の…」
「父を知ってる?あんたはソランとどういう関係なんだ?
教えてくれなければこれ以上の質問には答えない!」
この子は…父親に関わる事になると揺らぐ。
それだけ、この子にとって父親
『ソラン・イブラヒム』の存在が大きいという事なんだろう。
目の前のこの子供は
自ら弱点を差し出している事に自覚は無いようだ。
ずるいかもしれないが、
今はここを突いて情報を聞き出した方がいいだろう。
「僕は…君のお父さんと、
ソレスタルビーイングで一緒に行動していた。
仲間…と言った方が近いかもしれない。」
「仲間…父は…ソランは…ソレスタルビーイングにいたんだな…」
「ソレスタルビーイングは判るな?」
「歴史に名を残すテロ組織だろう?」
ティエリアは溜息をついた。
判ってはいたのだ。
自分たちの起こした行動がどう捉えられていたか。
そう思われてもかまわない。
只…目の前にいるこの容姿から発言されるとなるとさすがに複雑だ。
「確かに…見ようによってはそうなるな。」
目の前の子供…年は12歳くらいだろうか。
ジュニアスクールを卒業したか…してないか。
「…そのソレスタル・ビーイングに君のお父さんは所属していた。」
「…いつ頃?…なんであんたがそれを知ってるんだ?」
「ガンダムマイスターとして、一緒にガンダムに乗っていた。」
「…乗ってた?アレに?」
「お父さんから聞いてないのかな?」
ぐ。と声を詰まらせてイシス…刹那の子供…が視線を外す。
「証明してみせてよ。父さん…ソラン・イブラヒムがあのガンダムに乗っていた…
ソレスタルビーイングに入っていた証拠を。」
警戒してるのか、信じられないのか。
「一番確実なのは、本人に直接会う事だが。」
「信じるまで連れて行かない!!」
かたくなに声を荒げる。
ティエリアはポケットにしまっていた一枚の紙片を見せる。
念のため…とプリントアウトしていたフォトプリントだ。
「これは…君のお父さんと一緒にうつっている写真。
なかなか撮る機会が無かったのでこれくらいしか無いけどね。」
そこには、青いジャケットをまとった青年と
紫のジャケットを羽織った青年が並んでいた。
上手い具合に、
背後にソレスタルビーイングのエンブレムの端が見て取れる。
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