「自分に甘えを許さないところは変わらなかったか。
自分に決して甘くない男だから…
最後のわがままも…こんな…」
傍らのイシスから微かに嗚咽がこぼれた。
顔を見られたくないのか、
俯いたまま肩をふるわす子供の頭を引き寄せる。
「今くらいは…泣いてもいい。
3年…頑張ってたんだろ?」
その言葉を合図にイシスは堰を切った様に声を上げて泣いた。
「意地っ張りは親譲りか…」
「……うるさい……」
呟きはすぐ傍にいる子供に聞こえていた。
泣きながらも口ごたえするあたりも親に似てる。
そんなことを言えば、目の前の子供はますます意地を張るだろう。
判るからこそ、ティエリアはその言葉を苦笑の奥に閉じ込めた。
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軌道エレベーター『タワー』
「ユニオン」と呼ばれる国家郡が管理・維持していたものだ。
今、そのエレベーターへの定期便搭乗準備が進んでいる。
その中にティエリア・アーデと
ソラン・イブラヒムの子供であるイシス・イブラヒムの2人がいた。
イシスはいつの間にやらカジュアルな服装に戻っていた。
動きづらいから。その一言で
あっさりと可憐な少女の姿から少年の姿に変わる。
ステーションに入るあたりから周りをきょろきょろするあたり
父親に無い子供らしさが伺える。
「…軌道エレベーターは初めてか?」
「もっちろん!!こんなの、縁がなかったもん!
あ…でも…父さんは仕事とか言って、たまに乗ってたみたいだったけど。」
「…仕事? 何の仕事してたか聞いてるか?」
刹那が仕事…?ティエリアには想像もつかなかった。
「うーん?機密事項が多いから言えないっていってた。
いつも言ってもらえなかったな」
そんな会話を交わしているうちにエレベーターが低重力エリアに入る。
自分の身体がふと軽くなる独特の感覚がやってくる。
「う…わ?」
「…ホントに初めてなんだな…」
動揺するイシスを見て少し呆れ気味にティエリアがため息をつく。
「しっ…仕方ないだろ!初めてなものは初めてなんだから!」
ぷーっと音がしそうなくらい頬を膨らませる。
「あ、でも…この感覚、水の中ににてる」
「アンダーウォーターの経験があるのか?」
「うん。父さんに連れられて…
よく訓練施設みたいなところに遊びに行った。
ついでにいろいろさせてもらったから。
でも…宇宙は行った事が無かったから。
だから、軌道エレベーターも初めて。」
あはは。と笑いながら屈託なく話す。
やはり、刹那は何かしらの訓練や教育を彼女にしていたのだ。
「訓練施設…?」
「うん。E.S.W.A.Tとか…いろいろ。
あとね、住んでたアパルトメントの地下とかよく使ってた。」
「E.SWAT!?よくそんなところで訓練させてもらえたな!?
それで…あそこの地下になにかあったのか!?」
あいつ何してた!?そんな叫びを飲み込みながら
ティエリアは彼女から聞き出せる情報を出来るだけ聞き出そうとしていた。
「うーん…父さんはなんか知り合いが使わせてくれるからとかなんとか言ってたな。
結構いろいろシミュレーションとかしたよ。
アンダーウォーターもそこで覚えた。
先生は父さんだったけど。」
にこりと笑いながら目の前の子供は年齢不相応な経歴を話してくれた。
「で…地下にはシミュレーターが置いてあったんだ。
メカニカル的な事はそこで教わった。
もちろん、普通に学校には行ってたけど…
父さんの教えてくれる事の方が学校より遥かに面白かった。」
シミュレーターと言っても、かなりのジャンクだったけどね。と
屈託なく笑うこの子に父親は何を託そうとしていたのか。
昔の仲間であったティエリアでさえはかりかねていた。
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