「ティエリア・アーデ、帰還した」
モニターに向かって声をかけると
モニター越しに声紋認証のグリーンランプが明るくともる。
同時に、エントランスフロアの照明が明るくなる。
消費電力を押さえるために人がいない時には最低限の明るさに保たれているのだろう。
ティエリアに続いてイシスもエントランスフロアに入る。
2人とも既に宇宙空間用のスーツは脱いでいた。
「あら、艦長お帰りなさい♪」
「ミレイナ…その『艦長』はやめてくれってあれほど言ってるだろう?」
「あははー。お帰りなさい、アーデさん♪」
「か…艦長〜!?」
一歩後ろで2人のやり取りを聞いていたイシスが驚きの声を上げた。
「名目上でしかない。あまり大した事はしてないさ。」
苦笑するティエリアをおずおずとイシスが覗き込む。
「…あんた、そんなお偉いさんだったんだ…」
「気にしなくていい。
むしろ、対応を変えると怒るぞ。」
ティエリアはむ、とした表情で少し下から見上げる目線を
軽くにらみ返した。
ティエリアはそのあともイシスを連れてラグランジュ3−0の中を
「簡単に」と言いながら案内していった。
静止軌道上にある資源衛星をまねた形式のその中は
思っていた以上に広い。
簡単とはいえ、うっかりすると迷ってしまいそうな広さがある。
「君の部屋も用意した。最後に案内する。
もう、頼まれた荷物は入っているはずだから。」
「で、部屋に行く前にまだ連れて行くところがあるのか?」
初めて尽くしで軽く疲労感が拭えないイシスは早く休みたい気分で
ティエリアに聞いた。
「これから、お前が覚えて行かなければならない事が山ほどある。
その『先生』つまりは教官に会わせる。」
「…せんせい…」
「これから下手すれば付きっきりになる事も少なくないぞ。
覚悟しておけ。」
げーっ!と言わんばかりにあからさまな表情を浮かべるイシスへ
少し待つように伝えてから
ティエリアはブリーフィングルームへ入って行った。
イシスは言われた通り入り口で待つ事になった。
ブリーフィングルームでは既に2人の男性が待っていた。
2人ともかなりの長身で、落ち着いた感のある雰囲気だ。
一人は栗色の癖のある髪に
グリーンともブルーとも言えない色の瞳が印象的だ。
もう一人はブルーグレーの髪の色と
同じ色の左目、右目は金色とも取れる色を持っていた。
オッドアイを持つ人物はイシスも初めて見るであろう。
「おー。久しぶり。
地上のミッション、お疲れさん。ティエリア。」
栗色をした髪の男性が声をかけてきた。
「ただいま。ロックオン」
そう返すと、ロックオンと呼ばれた男性は呆れて笑いながらそれを否定する。
「あー、もうやめろよ『ロックオン』は。
それはケルディムと一緒に返上したんだって。」
「そう言うな。まだお前のデータはケルディムのマイスターとして
登録してある状態なんだから。」
「そんな事言っても次引き継ぐまでの仮のものでしかないさ。
もうぶん回す体力も無いよ。
子供もずいぶんでかくなった。歳はとっちまうもんだな。」
はは。と苦笑いを含めてロックオンと言われた男性はおどけた様に肩をすくめる。
そこにもう一人の男性が話を本題に戻すべく口を挟む。
「お帰り、ティエリア。
で、会わせたい子供がいるって?」
外見とは打って変わって落ち着いた、
それでも穏やかな言い回しの男性が
続いてティエリアに話しかけてくる。
「ああ、一人、子供を連れてきた。
ガンダムマイスター候補だ。
『刹那・F・セイエイ』に一番近い人物になるだろうな。」
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