「ああ、今日で処分最終日になる。後半日ほどあるか。
今日はこれを返しにきた。」
ティエリアはイシスから借り受けたメモリーを手渡した。
「あ…ありがと。」
持ってきてもらえるとは思っていなかったらしいイシスが
驚きながらもメモリーを受け取る。
「一部はソレスタルビーイングの医療チームへ提出させてもらった。
役立ちそうな情報もはいっていたからな。」
「…俺の情報も…?」
「それは大丈夫だ。
マイスター候補はマイスターに準ずる守秘義務が発生する。
それを破る事はまずない。」
はっきり言いきったティエリアにイシスは安堵する。
「明日からまたトレーニングの予定と00のデータ採取
マイスターのテスト…予定が詰まってるぞ。
父さんの名前…継ぎたいなら頑張れ。」
ティエリアがイシスの頭をポンと軽くたたく。
くすぐったそうに首を竦めるイシスがわかった。と答えると
ティエリアはイシスの部屋を後にした。
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ラグランジュ3-0内には2カ所の食堂がある。
自分の配置場所に近い食堂で自由に食事が出来る。
食事と言っても宇宙空間なので、
コンテナ便で定期配給の食材で作られたものであるし、
クルー自身の自室にも簡易的なキッチンは用意されている。
それでもクルーにとって食堂は
単に食事をするだけの場所に限らず、
レクレーションや憩いの場にと様々な顔を見せる為、
時間による差はあれども日常的に賑わっていた。
その中にイシス・イブラヒムの姿が見えた。
謹慎処分が解かれたため、自室から食堂へと向かったのだ。
ちょうどランチタイムとあって
食堂はそこそこのにぎわいを見せていた。
食事を済ませても、同僚と談義する人、
古くからあるクラシカルなボードゲームに興ずる人々
イシスは食事の乗ったトレーをのせて
その人々を避け、食堂の片隅にある
適度に空いているテーブルに腰掛けて
少し遅めの昼食をとり始めた。
「あー、キミ。この間の…えっと…確か…」
食べ終わろうかというところで
不意に背後から声がかかった。
振り返ると、やや癖のあるブラウンのショートヘアに
グリーンの瞳、ひょろりとした長身の青年がにこやかに立っている。
初めてここに来た時に紹介してもらった人物だ。
「イシス…イシス・イブラヒムだ。
アンタ確か…スェウ・ディランディ…だったよな?」
イシスが振り返りながら確認をとる。
「お♪覚えてくれてたんだ。嬉しいね。」
「大抵人の顔と名前は一回で覚える。」
普段、笑顔を絶やさないのは父親譲りなんだろうか?
そんな疑問を持ちながら
勘違いされたくないと言わんばかりにイシスが返す。
「へぇー。凄いな。
俺なんかよく間違えちまうんだけどな」
ははは。とスェウが苦笑いを出す。
その笑顔につられて笑みを返していると
声が挟まれた。
「おーい、スェウ。ほら、コーヒー。」
離れた場所から
ボトルを両手に持った少年がスェウに近づいてくる。
「おー、アレク。サンキュ。」
「今回は負けたからな。次はおごらせるぜ!」
「勝率は俺の方が上だと思うけど?」
そんな気楽な会話をイシスは椅子に座って眺めていたが
いかんせん2人とも背が高い。
スェウは一度あった事があるのでよくわかるのだが
隣に立っている少年は初めてだ。
視線を感じて、少年はイシスを見遣る。
「あー。お前かぁ。いきなりガンダムに乗り込んで
ガンダムに踊り踊らせたってのは!」
突然、あの騒ぎの件を突きつけられて
イシスが恥ずかしさにカッと赤面する。
「踊りって何だよ!?」
喰ってかかろうとするイシスに
「ほー?当の本人様は聞いてないのか?
悠長なもんだな?それとも余裕?」
からかい半分、イシスに向けて挑戦的に発言する少年に
イシスがつかみかかりそうな勢いになっていた。
「おいおい、アレク。
またそうやって人にちょっかいかけるだろ。
お前の悪い癖だ。
それに、イシスは今日謹慎が解かれたばかりだ。
噂なんて知る由もないさ。」
スェウが止めにはいる。
「あー。2人ともここにいたんだ!」
軽く張りつめた空気をモノともせず、
明るい少女の声が割り込んできた。
今度は誰だ?と言わんばかりに声のする方向を見て
イシスが少し驚いた。
今目の前にいるアレクと呼ばれた少年と
そっくりな顔立ちの少女がそこに居たのだ。
「あ…?ひょっとして…アンタら双子?」
イシスが声をかけると
今しがたやってきた少女がイシスを見遣る。
「あれ?見かけない子だよね?最近入ってきたの?」
自分よりわずかに年上に見える双子を目の前にして
食事の終わったイシスが立ち上がる。
「ああ、少し前に入ってきたばかりだ。
イシス・イブラヒムと言う。宜しく。」
軽く自己紹介をすると
今度は少女の方からにこやかに手を差し伸べられた。
軽く握手を交わしてから少女が名乗る。
「宜しく、イシス。私はナターシャ。
ナターシャ・ハプティズム。
コイツは、双子の弟でアレクセイ・ハプティズム。
みんな、アレクって呼んでるわ。
跳ねっ返りだけど、悪気はないから。
ムキにならない方がいいわよ。」
ナターシャは隣に立つ双子の弟を指でつつきながら
2人分の紹介をやってのけた。
「で、なんでナターシャがこっちにあがってきてるんだよ?
大学はどうしたよ?」
アレクは少し困った様にナターシャに突っかかる。
どうやら彼はこの双子の姉に弱いらしい。
そんな弟を横目で見て、
ナターシャは少し胸を張って説明した。
「大学なら、前期テストが終わったから
これから夏期休暇に入ったの。
当分、皆と一緒だから宜しくね。
しばらくはアタシがミッションプランを組んで
シミュレーションする事もあるから宜しく。」
えええー!?と声を上げる長身2人を横目で見ながら
イシスは今浮かんだ疑問を
躊躇いなくナターシャに聞いてみる。
「ナターシャが、ミッションプランを組むのか?」
「ああ、アタシ今大学で戦術予報を学んでてね。
戦術予報士の候補なの。
目指してるコードネームは
『スメラギ・李・ノリエガ』よ。
スキップしたから、見た目には大学生に見えないけどね。」
ふふふ。とナターシャが微笑む。
そんな笑顔を見てると双子でも対照的なんだなと
そんな事を感じつつイシスの顔にも笑みがこぼれていた。
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あー!やっと子アレマリを出せました!!
ちなみに3人共に現段階ではイシスの性別に気付いてません。
特にスェウ(子ロク)とアレク(子アレ)は少年だと疑ってません。
親はデータを見てるのでちゃんと知ってますよ。
さてはて、これからこの3人で
ラグランジュを引っ掻き回してもらいましょうか。
ひとまず、主要キャラは出てきたので
『こんな○○が見たい』などありましたらご意見いただければ
是非参考にしたいと思いますので
お気軽にコメントくださいませ。(ぺこぺこ)
は〜。やっと一段落。