20-years-after

「……娘だったんだ……」
「失礼だけど…気付かなかったぜ…えぇ？」

「そうだ。イシス・イブラヒムは刹那・F・セイエイの娘だ。」

きっぱりと言い放つティエリアにスェウとアレクセイの２人は
目を丸くさせていた。

「確かに、あの子は自分が女性とは判らない様に振る舞っているからな。
気付かないのも無理はない。本人なりに判ってやっている事だ。」

「アイツ…目がどうこうとか言ってたけど…ティエリアは知ってるのか？」
アレクセイが質問を出す。
それにはアレルヤが答えた。
「それに関してはここで話す事じゃあない。
また、時間のある時に話そう。」

「じゃあ、今晩食事が終わった後に聞いてもいいか？」
「ああ、わかった。その時はロックオンにも来てもらうといい。」

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その晩、ブリーフィングルームには
アレルヤ、ティエリア、ロックオン
そして
マイスター候補であり、それぞれの子供でもある
アレクセイ、ナターシャ、スェウ
そして、当事者になるイシスが顔を揃えていた。

「ここでの話はマイスター候補の守秘義務に触れる事もある。
只、このメンバーには必要な情報だと僕が判断した。
この部屋はオフラインにしてある。
今のうちに話せる事は話しておいた方がいいだろう。」
いい機会だ。とティエリアは続けた。

「さて…と。まずは改めてここにいる面子の関係をお浚いしておくか。」
イシスへの確認にもなるからというティエリアの意向だという事も
その場の全員が理解していた。

まず切り出したのはこの部屋の最年長にもなる
『ロックオン・ストラトス』ライル・ディランディだった。

ライルは隣に立っているスェウの肩を持つ。
「コイツは、俺の息子。スェウ・ディランディ。１８歳になったばかりだ。
で、オッドアイの彼が、『アレルヤ・ハプティズム」
アリオスガンダムのマイスターだ。」
アレルヤが言葉を続ける。
「そして…僕の子供になる、この２人。
見て判るかと思うが双子になる。
アレクセイ・ハプティズム、ナターシャ・ハプティズム。
１６歳になる。」

話を戻す様にライルが続ける。
「スェウは…生まれた時に右耳がなかった。それは…コイツから聞いてるんだな？」

ライルがイシスに確認を取った。

「ああ、この間食堂で話したもんな。よく聞かれるから気にすんなよ。」
イシスが頷くとほぼ同時にスェウが間の手を打つ様に話す。
「コイツのそれは…おそらく遺伝的な要素が強い。
再生が上手く行かなかったのは今だに原因が分からない。」
ライルの言葉を追いかける様にティエリアが続ける。

「マイスター全員、それに準じて当時プトレマイオスに登場していた人物他、
GN粒子及びオリジナル太陽炉に関わった人間の医学的データを
今現在採取している訳なんだが…
その対象人物に刹那・F．セイエイ…ソラン・イブラヒムも含まれるはずだった。」

ティエリアがイシスを見ながら話を続ける。

「そこで、00のデータ採取と生体データ、遺伝子調査に関わる人物として
やっと所在の判明した刹那を呼びに向かったところ、君がいた訳だ。

…イシス・イブラヒム…いや…」
「イシスでいい！俺はイシス・イブラヒムだ！」

ティエリアの言葉を遮り、イシスが声を荒げた。

「イシス・イブラヒム。君にも生まれた時から何かしらの問題があった。
眼球及び声帯の先天的異常…そうだったね。」
イシスの否定を受けて、それ以上はもう言うまいとイシスを見遣ってから
ティエリアは確認を取る様にイシスに声をかける。

「…ああ。」
少し俯きながらイシスが肯定する。

「再生治療が根本的な解決にならなかった…そこに父である刹那自身の病。
父親としての選択…親子間の移植。これが功を奏した。
今の君の瞳と声は父である刹那の形見…のようなものなんだな。」
ティエリアが宥めるような目をイシスに向ける。

「ああ。…だから…だからこそ00が起動した。
自分の知る由もないところだったから驚いたけど…」
戸惑いながらもイシスが頷く。

「実は今、話したい事はそこじゃあないんだ。
…ここにいるスェウ、ナターシャ、アレクセイ
そして、イシス。
この４人が生を受ける時に何かしらリスクを負っていた。
しかも現在の医学的治療の最先端と言っても過言ではない再生治療が
どのケースも功を奏さない。そこが気になっているんだ。」

アレルヤの発言にその場にいる全員が各々の面持ちで顔を上げる。
ティエリアが引き続き話を続ける。

「残念ながら…現段階で完全にこれと言える特定原因は判定されていない。
只…ここまでマイスターに特定して現れるのは…
少なからずGN粒子が影響されているのではないかとの医療チームからの
報告もある。」

「アレクセイとナターシャには今のところ何も起こってはいないが…
アレクセイとナターシャには本当は姉がいるはずだったんだ。」
ライルの言葉にアレルヤが視線を落とす。
アレクセイとナターシャは父親であるアレルヤを見る。

「…あの子は…生まれた時に…もう長くは持たない事が判っていた。
長くなるし、専門分野ではないのでここではあまり言えないんだけど。
やはり、先天性のものだった。」

重い空気を吐き出す様にアレルヤが話す。

「…だから…だからこそ…この２人が生まれる時は心配した。
妻だってそうだ。不安だった。
こんな思いをしなければならないくらいなら…
まだ一線で命を晒しながら戦闘している方がましだと思うくらいに。」

「それでも…俺は…俺たちはガンダムに乗る事を望んだ。
認めてくれた両親には感謝してる。だからこそ…
ガンダムに乗って『生きる』んだ。そう誓った。」
アレクセイがまっすぐ正面を見据えて話す。
スェウがその言葉に頷く。

「紛争根絶…無理難題なのは分かってるんだ。
でも…ソレスタルビーイングは活動を止める事は出来ない。
活動を引き継ぐんだ。咎も引き継がなきゃいけない。
俺は…そう思う。父さんを見ていて…
子供の頃は何がなんだか判らなかった。
今は…こうやって一緒に活動できる事に胸を張れる。そう思ってるんだ。」

スェウがライルを見据えて話す。

「スェウ…お前…」

ライルは驚きを隠せなかった。

「『刹那・F・セイエイ』は…ソラン・イブラヒムは…
どうして…ガンダムに乗ったんだ…？
俺は…ソレスタルビーイングにいた父さんを知らない。知らなさすぎるんだ。」
俯いた顔を上げながらイシスはその場に居た全員を見回した。

「教えてほしい。父さんを…『刹那・F・セイエイ』を。
あの人の生きた証を。」