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西暦2322年。
アイルランド・ダブリン州、ダン・レアリー。
その親子は久しぶりに郊外型のショッピングモールに来ていた。
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父は、あまりこう言うところが好きではないと言っていたのだが、
彼の誕生日が近い事もあり、今回は珍しくついてきてくれていた。
「あれー?父さん…?」
そんな中、息子が父親とはぐれた。
もう10歳にもなると、迷子という訳にも行かない。
さてどうしたものか。
そう考えながらモール内を歩いていると
同じ様にぽつんと立ち尽くしている少女が見えた。
年の頃は5歳くらいか。
癖のある黒い髪が印象的だ。
迷子かな?
そう感じた少年は、なんだかほっとけない気持ちになり、
その少女に近づいた。
「あー…言葉…判るかな?
君…迷子?お母さんかお父さんは?」
ひとまず声をかけてみる。
少女は声に反応し、声をかけてきた少年に顔を向ける。
視線が合わない。
「…あれ…?」
これからどう声をかけたものか。
そう考えあぐねているうちに、少女の表情がくしゃりと歪んだ。
あ、ヤバい。 泣きそうだ。
「あー!泣いちゃダメだよ。一緒に探そうか?
自分の名前…言えるかな?」
彼がギクリとして、取り繕う様に少女へ声をかけたところに
男性の声が聞こえた。
「サラ!ここにいたのか!
お父さんから離れるなって言ったじゃないか。」
サラと呼ばれた少女はその青い瞳を父親に向けた。
勿論、彼女はぼんやりとしか見えてないのだろうが。
少女によく似た癖のある黒髪、
瞳は正反対のクリムゾン。
顔立ちはそっくりで、顔に『親子です』と書いてあるようなものだ。
少女は、父親に黙したまましがみついた。
「この子は自分で上手く声が出せなくてね。
目も悪くて。はぐれたから探してたんだ。
君が助けてくれたのかな? ありがとう。」
少女の父親はそう声をかけるとスェウに微笑んだ。
「いえ…少し声をかけただけです」
少年は照れくさそうに返事を返した。
「君、名前は?」
「スェウ。」
「…スェウ…か。 いい名だ。」
父親は、そう言うとにこりと微笑み
娘を抱きかかえその場を立ち去っていた。
その親子はすぐにショッピングモールの人ごみの中へと消え去って行った。
次に見つけたときは吹き抜けから下のフロアにいるところだった。
「あー…」
スェウが声を上げた時、背後からがっしりと肩を掴まれた。
驚いて振り返ると、そこには父親、ライル・ディランディが立っていた。
「おまえなぁ、今日は人が多いんだからちょろちょろすんなっての。
迷子になるぞ。その年齢で迷子は情けないぞ。」
「うん…ごめん。
小さい子が迷子になりかけてたから…声かけてた。」
スェウがもう一度吹き抜けから最後に少女とその父親を見かけた
フロアを見遣ったが、既にその親子の姿は見えなくなっていた。
「あれー? もういないや。」
「ふーん?」
そう言いながら、ライルも息子の視線を一度追ってみる。
だが既に、そこにその親子の姿はない。

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