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イシスは、部屋のあらかたの埃を取り除き、
生活に支障はない位の掃除を済ませていた。
気付けば周囲は暗くなっていて
自分が明かりをつける事すら忘れていた。
部屋の明かりのスイッチをつけると、
部屋が明るくなった。
その時。
玄関の呼び鈴が鳴った。
不審に思い、インターホンにでる。
「…はい。」
「あの…こんばんは。隣のものですが…
少し、お話しさせてもらっていいですか?」
丁寧な言葉遣いの、男性の声だ。
「あ、ちょっと待って下さい。出ます。」
インターホンを切り、イシスは玄関に佇む男性と向き合った。
「…話って…?」
「あ…えと…もしかして…一人暮らしですか?」
「ええ…まぁ…」
「じゃあ、もしよければ、隣ですし、うちに来ませんか?
大したものじゃあないですけども、食事もありますし。」
「…いいんですか?そんな突然…」
「大丈夫ですよ。一人増えた位なら。」
隣人の笑みとともに差し出された好意に、
空腹を感じていたイシスは、誘いに甘んじる事にした。
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「とうさん、お帰り。…って…あれ?」
刹那・ハレヴィ・クロスロードは困惑した。
父親がいきなり家を飛び出したと思ったら
これまた突然さっきの隣人を連れて戻って来た。
…なんなんだこれは。
「すいません、突然。」
「構わないよ。僕が誘ったんだ。」
玄関にポカンと口を開けていた刹那は
自分が何もせずに突っ立っていた事に気付いて
慌ててスリッパを差し出した。
「…ありがとう。」
微かに微笑む隣人を見て
先程の無愛想な挨拶は何だったのかと刹那は首を傾げていた。
イシスは食卓に並んだ食事を凝視していた。
自分が今まで口にした事のないものが並んでいる。
「…どうしたの? あ、箸…使えないとか?」
刹那がじっと黙っているイシスの様子に気付き、
声をかける。
「いや…これは…父から使い方を教えてもらった事があります。」
「ひょっとして、日本の食事は初めてかい?」
父親の質問にイシスは頷く事で肯定する。
「筑前煮。食べてみるかい?」
「…うん。」
イシスはおそるおそる箸をのばした。
「どう?」
「…おいしい…。」
「とうさん、得意だもんね。」
「え?」
作ったのが今筑前煮を勧めていた父親の方だった事に
意外性を感じ、イシスは父親を見遣る。
「ああ、ウチね、父さんの方が料理上手いんだ。」
「どうせアタシはお父さんより下手ですよー。」
息子の発言に大人げなく拗ねた様子で母親が舌を出す。
「そういえば、名前…聞いてなかったわね?」
確認する様に母親の方から訪ねられたイシスは
先程、息子へ言った時と同じ様に答える。
「刹那…刹那・F・セイエイ。」
「…その名前は…本当の名前ではないね?」
父親が、はっきりと言った。
「…とうさん…?」
何が何やら判らないという表情をした息子に
安心させる様に微笑みながら、父親は続けた。
「僕たちの名前を言ってなかったね。
遅れて申し訳ない。
僕の名前は、沙慈・クロスロード。
そして、妻のルイス・ハレヴィだ。
で、息子の…」
「刹那・ハレヴィ・クロスロード…?」
「今日聞いたとは思うけど、
彼の名前は、僕たちに縁のある人物の名前をそのまま貰った。」
「…それが…『刹那・F・セイエイ』?」
「…察しがいいね。
君も、『刹那・F・セイエイ』を名乗っている。
…ソレスタルビーイングの人だね。」
父親…沙慈は確信を持ってイシスに問うた。
「…はい。
沙慈・クロスロードさん…。
聞きたい事があるんですが…
答えてもらえますか?」
「沙慈でいいよ。
僕に答えられる事なら。
そして、僕からも君に聞きたい事がある。」
「…答えられる範囲なら。」
「では…まず…君の名前…それから…
君と『刹那・F・セイエイ』の関係を
教えてくれるかい?」
イシスと沙慈、双方が確認をとった後、
切り出したのは沙慈の方だった。
「俺の名前は…イシス・イブラヒム。
『刹那・F・セイエイ』は俺の父親です。」
「やっぱり…」
イシスが答えたところに、相槌を撃つ様にルイスが声を上げた。
「俺は…父に似てますか?」
「そうね。面影はあるわ。」
「じゃあ…イシスって呼んでいいかな?
2人も『刹那』がいると呼びづらいからね。」
沙慈の提案にイシスも反論はなかった。
「…はい。」
微笑みながら答えると、
沙慈は意外そうな表情を浮かべた。
「君は…お父さんよりもずっと愛想がいいね。
ところで、イシスは何歳?」
「…19です。」
「お父さんは?」
沙慈の質問にイシスは簡潔に答えていく。
「…8年前…俺が11の時に亡くなりました。
母は…物心つく頃にはいませんでした。」
「……そう…。」
意外そうな表情をする沙慈にかわって
ルイスが残念そうな表情で相槌を打った。
「彼には…沢山のお礼を言いたかった。
彼がいなければ、僕たちはこうして生きている事もなかった。
こうやって…再びここで…家庭を持つなんて事も不可能だった。
「刹那には…一度でいいから息子に会って欲しかった。」
彼がいたから…この子がいるのだもの。」
「僕と…この人に、どんな関係があるの?」
おずおずと刹那が両親に問うと
父親である沙慈は、懐かしむような笑みを浮かべ、
ゆっくりと話しだした。
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沙慈と刹那の関係は対比でしたが
彼が受けた影響は計りしれませんよね
こうして幸せな家庭を持つ事ができたんですから・゚・(ノД`)・゚・。
>銀サチさん
沙慈と刹那、2ndシーズンの2人の関係が何となく好きなんですよ。
24話見た後に、『刹那』はもう一人出そうと考えてました。
ややっこしいですね。スイマセンー(;><)
でもでも、イシスとの比較として、彼は必要だったんですよー。(笑)