あの戦いから一線を退いたとはいえ
やはりソレスタル・ビーイングの活動は
水面下もしくは微細な活動として
いまだに衰える事はない。
そんな中、再びあのコードネームを名乗るべく人物を呼び、
そして活動を開始すべく行動準備をしなくてはいけないのは
なんとも言えないものだ。
そう…彼らが一線で戦い抜いたあの日から
もう既に20年が経過していたのだから。
あれから彼とは連絡を取っていない。
取れなくはなかったが、
取る気にならなかったというのが正直なところだ。
今、彼はこんな古ぼけたアパルトメントで
どういう生活をしているのか
それすらも知らずにいた。
「…ここか。」
手にした情報から、古い建物の一室で足を止める。
この建物にはこの部屋以外に住人はいない。
不用心な気もするが、
彼らしいのかもしれないとも感じずにいられなかった。
玄関に表札などは一切ない。
だが、住所は確実にこの部屋をさしていた。
ブザーを鳴らす。
反応が無い。
「…?不在か?」
その時。ティエリアが先ほど通って来た
アパルトメントの廊下から声がした。
「…どちら様ですか?」
癖のある黒髪、鋭い眼差し。
見覚えのある容姿。
その『子供』がティエリアに声をかけた。
ティエリアが息を呑む。
あれから20年の歳月が経っているはずなのに。
目の前にいる『彼』は
見間違う事無くその容姿は『彼』なのに
どう見ても10代の『子供』なのだ。
驚きを隠さないティエリアの様子に
不審な顔を見せる目の前の子供は
聞こえてないのかと言わんばかりに
もう一度ティエリアへ声をかけてきた。
「あんた誰?こんなうちに何の用?」
中性的なアルトの声がよく響く。
「………刹那…?…なのか?」
名前を呼んでみる。反応を見る。
「?刹那って誰?」
目の前の子供は首を傾げる。
それは演技なのか?それとも覚えてないのか?
そもそも全く知らないのか?
ティエリアは図りかねていた。
まずはこちらを信用してもらわないといけない。
ティエリアは自ら名乗る事にした。
「ソレスタルビーイングから来た。ティエリア・アーデと言う。
刹那と名乗る人物がここにいると聞いたが?」
一瞬、目の前の子供が目を見張る。
よくよく見ないと判らない様に顔を少し伏せたが、
ティエリアには十分感づける反応だった。
「…誰だそれ…?」
少し重くなってきた空気とともに子供は目をそらせながらつぶやいた。
「…じゃあ…ここに『ソラン・イブラヒム』は居るか?」
次いで聞いてみた名前に子供は明らかに反応を示した。
顔を上げ、こちらをまっすぐ見つめる。見覚えのある瞳。
見つめ返すと、自分が錯覚を起こしたような感じにすらなる。
今、西暦何年なのか?自分はタイムスリップしたのではないだろうか?
そんな疑問さえ感じさせるほど、目の前の子供は瓜二つだったのだ。
そう。『刹那・F・セイエイ』ソラン・イブラヒムに。
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