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2人が連れられた場所は、先程のホールからは想像もつかない程
整然としている大きな部屋だった。
そこには様々なモニター類と、大きなカプセルの様なものが並んでいた。
通路越しにそれを見ながら、通路奥のドアに4人はいた。
フェルト・グレイス
ミレイナ・ヴァスティ
アレクセイ・ハプティズム
スェウ・ディランディ
ドアをくぐると部屋が一つ。
デスクの上にはやはり様々なモニター類が並び
それぞれに刻々とデータを表示していっている。
そのデスクの一つにフォトプリントが一枚、額に入れられて飾られていた。
ふと、スェウの目に留まり、彼はそれを手に取った。
「…これ…は…?」
「かなり昔の写真よ。それだけは残ってたの。」
ミレイナの答えはスェウの耳に届いていたが
彼はそれを聞き入れる気持ちの余裕がなかった。
その写真の中に見覚えのある顔があったからだ。
「………かあさん…?」
そろいの服を着た数人の人物が
その写真の中に映っていた。
そこにスェウは母親を見た。
いや、正確には母親と瓜二つの人物である。
『それは、アーサ・リータではない。』
「ティエリア?」
アレクセイは顔をあげたが、スェウは未だ手元の写真から目が離せないでいた。
「じゃあ、この人は誰なんだ?」
『その写真の中にいるのはアニュー・リターナーだ。』
「…この人が…」
『初めて見るか?』
「父さんは…見るのが辛いと…彼女の写真は決して表に出さなかったんだ。」
『なぜ、自分の母親に瓜二つか、知りたいか?』
「…俺には知る権利がある。そうだろう?ティエリア。」
『勿論だ。アレクセイにも知っていて欲しい。
これから見る事は驚く事が多いかもしれない。
それでも…見ておいてくれるか?2人共。』
ティエリアの声に2人が頷いた。
それを確認した様にティエリアの声が響く。
『ミレイナ、フェルト。2人を奥へ。』
「はい。」
「判りました。」
ミレイナとフェルトは返事を送ると
目の前の2人を部屋の奥にあるドアの向こうヘと連れて行った。
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並んでいるカプセルとそれぞれに接続されているモニター。
その並びの中、カプゼルの中には人が液体の中に眠っている。
アレクセイ、スェウの2人はその光景を見つめていた。
「…これ…」
アレクセイの声にフェルトが答える。
「ここに眠っているのは全てイノベイドよ。
ここで成人したイノベイドは人格、性格及び
向かう土地柄などの必要情報を植え付けた後
各国へと出向かう事になるの。」
「それが、ヴェーダの情報として集められる。
その情報がヴェーダの演算情報の糧となる。」
フェルトの声にミレイナが続いた。
スェウの足が一つのカプセルの前で止まる。
その中に入っている人物の顔に見覚えがあったからだ。
「……かあ…さん……?」
その中では母親に瓜二つの人物がカプセルの中で覚醒の時を待っていた。
『そうだ。スェウ・ディランディ。
そこにいるのは、君のお母さんと同じ塩素記号配列を持つ
…イノベイドだ。』
「…じゃあ…かあさんは…
それを知ってて…父さんは…母さんを…?」
カプセルに右手を添えながら、スェウは俯いて呟いた。
『それは判らない。只言える事は
ライルはアーサを愛して、君を愛し、育てた。
アーサは全てを知って、それを望んだ。』
カプセルに添えられたスェウの右手が強く握りしめられ震えだす。
「母親は作られた存在で…とうさんは…
俺は…なんなんだよ?
なぁ…誰か…教えてくれよ!!!
俺の存在って何なんだよ!?
なぁ…父さん…アンタなら判るんだろう?
なんでいないんだよ……?…どうして…」
スェウはその場に額突く様に崩れ落ちた。
そのまま、こらえきれない慟哭がフロアに響いていた。

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