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秘密裏に行われる事になった『会談』は
その国の王宮にある会議室で行われた。
広い、簡素ではあるが華美ではない、
印象のいい部屋だ。
『国』側の人間は4名。
ソレスタルビーイングからはイシスとティエリアのみ。
やや緊張の面持ちが並ぶ『国』側と反して
イシスは微かな笑みすら浮かべ、対峙している。
ティエリアは表立って表情を出さないものの
内心では眉間にしわを寄せている。
それもそのはず。
今のイシスの出立ちを用意した時にどうするのかと頭を抱えたのだ。
真っ直ぐ腰までのびる黒髪。
これは勿論ウィッグをかぶっている。
薬によって、虹彩を変えた緑の瞳。
これは持って5日。
それがすぎれば再びあの濃いブラウンの独特の虹彩に戻る。
つまり、イシスは5日以内でこの話のケリをつけると言い切っているのだ。
着ている服装は青と白を基調としたワンピース。
ティエリアも珍しくスーツを着込んでいる。
「ようやく、対話に応じて下さいましたか。」
「お待たせしました。…とは言いましても、
お返事は既に書面にてお渡しさせていただいている通りですが。」
毅然と胸を張り、国家首脳陣へ向かい堂々と話す様は
母の血がしっかり受け継がれている証拠なのだろう。
「これを…受け入れる事が
あなたがこの国の象徴として
名を名乗る事に同意するとの事なのですね。」
「ええ。『彼女』も引き受けてくれました。
…お入りください。」
イシスは背後にあるドアを振り返り、声をかけた。
入ってきたのは女性2人。
一人は、落ち着いた中年の女性。
もう一人はイシスと同じ背格好、髪型、瞳の色の女性。
「…彼女が、私の不在時に代行をしてもらう手筈になっています。
同行していただいたのは、後見人になります。
…皆様もご存知のはずですね。」
「お久しぶりです。」
後見人として呼ばれた女性は、一頃挨拶をした。
「…シーリン・パフティヤール…」
「はい。」
「…彼女には、今回の件につきまして多大な助力を頂きました。
また、今後ともに手助けをしていただく事になります。
私共々、宜しくお願いしますね。」
「勿論、有事の際には
あなた本人がいらして下さる事が大前提ですが…」
国家首脳の眉間に寄せられているしわは消える事はなさそうだ。
イシスは、それをものともしない。
…大した度胸だな…
ティエリアはやり取りを眺めながら心の中で呟いていた。
「ええ、勿論心得ています。
只…ようやく王制から政権国家へと変貌を遂げている
この国が、女王の必要性は薄れてきているのは事実。
あくまでも象徴として、旧国家支持団体への緩衝としての
存在意義が多いかとは思います。」
「…確かに。あなたのお母様が努力してこられた
国民に依る政治。それがようやく軌道に乗り始めた。
だが、旧国家体制…王制を希望する国民も未だ少なくない。」
「それを、納得させるのが…
母が、そして私が
遂げなければならない目標だと感じております。」
「それが、伝わっていれば…
あなたの『代役』がこちらにいてくれるのであれば…
あなたが『王』としてこの国へいらしてくれる事が約束されれば
あなたの行動に関して、黙している事としましょう。
…ただし、最低限の執務はお願いいたしますよ。」
「承知しております。」
イシスの満面の笑顔と
首脳陣の未だ解けない眉間の皺、
イシスと同様に胸を張る後見人ともう一人のイシス。
それを客観的に見ているティエリア。
この数少ない人数での密議はあっさりと終了した。
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イシスとティエリアは控え室と呼ばれる部屋へと案内されていた。
先程の会議室と隣接する小さな部屋だ。
「…よかったのか? あれで。」
ティエリアの質問にイシスは満面の笑みで答えた。
「うん。子供の頃は…あの人達にアパルトメントまで詰め寄られて
国にもどれとしつこかったんだ。
だから…初めてあった時は
ティエリアもそんな人間の一人だと思っていた。
今だから言える事だけどね。」
はは、と笑いながら告げるイシスの笑顔はいつものものだった。
「…それで…あのときは頑な態度だったのか…」
半ば呆れたようなティエリアの笑みにイシスも笑う。
「俺は、父さんも、母さんも守ってきたものを継ぎたいんだ。
…今なら…2人の子供である事を誇りに思う。」
「…その格好で『俺』はやめないか…?」
「いいだろ?
ガンダムマイスターの女王ってのも。」
「…先が思いやられるな…」
ティエリアは何度目かの溜息とともに『仲間』の娘を見遣った。
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国の名前は『アザディスタン王国』から『アザディスタン』へと変貌していった。
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はい、やっとイシスのお母さん判明しましたね。
やっとこの行が書けた感が強いのですが…
まだまだじわじわと掘り下げたい話ですね。
また、書く機会があれば書いていきたいと思っています。PR