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『時を足掻く』
薄暗いトレミー内、
未だ何も映らないモニターの前で
グリーンのパイロットスーツを身にまとった人物が項垂れていた。
長い前髪で自分の表情を隠す様に俯く
その顔は苦悩に満ちていた。
「…アニュー…なんでだ…どうしてなんだよ…!
………くそっ………!」
頭を振りながら吐き出す様に呟く。
それを聞いたのか聞かなかったのか
青いパイロットスーツを着た青年が近づいてくる。
「彼女は、戦闘に出てくる。」
グリーンのパイロットスーツを着た
ライル・ディランディーロックオン・ストラトスは
青いパイロットスーツの青年へと顔をあげる。
真っ直ぐに自分を見る瞳。
そこにライルは兄を垣間見る。
今までもことあるごとに
この青年が兄の影響を色濃く受け継いでいる事に気付いていた。
それだけ、この真っ直ぐな瞳が兄と被り、
それが今はたまらなくライルを苛立たせる。
いつもはひょうひょうと躱す事も出来るが
今のライルにはとてもではないが出来なかった。
自分でも情けない顔をしているのが判る位に
気持ちの余裕がなかった。
「判ってるよ。言われなくてもやる事はやる。
相手はイノベイターだ。俺達の敵だ。
トリガーくらい…」
「強がるな。」
自分に言い聞かす様に声を大きくしていたのが
相手にいやという程伝わる。
それを察して青年は割り込む様にライルの言葉を遮る。
「なっ…!」
何を。と言おうと青いパイロットスーツの青年…刹那を見た時
ライルは言葉を続けられなかった。
自分より辛そうな顔をしている。
ライルにはそう見えたのだ。
更に刹那は続ける。
「もしものときは俺が引き金を引く。
そのときは俺を恨めばいい。」
ああ…ここにいるのは刹那だろうか。
それとも…兄さん…アンタだろうか。
そんな気持ちをもみ消す様にライルは言葉を荒げた。
「格好つけるなよ、ガキが!」
「お前には、彼女と戦う理由がない」
瞬間、そうであってほしいと思う自分がいる事に気付くが
今の自分にはそんな甘えが許せない事も判っている。
逡巡の後、否定の言葉を出す。
「あるだろう!」
「戦えない理由の方が強い。」
ライルは言葉を失った。
…刹那は、ライルをしっかりと見据えていたのだ。
それだけでなく、アニューとの事をも
さりげなく支えていた事に気付かされる。
自分よりも8歳も年下の目の前の青年が
今までどれだけのものを見て来たのか。
真っ直ぐに自分を見据えて
その先にいる自分の愛する女性まで考えている。
その行為に甘んじている自分を許せなくなり
ライルは刹那から顔を背けた。
刹那が出撃準備へと部屋を離れた後も
ライルは暫く動けずに居た。
ライルが一人呟く。
「俺が…アニューを取り返したら…
力ずくでもつれ返す事が出来たら…
アイツは…刹那は引き金を引かなくて済む。」
思い出す。
彼女の笑顔を。
その柔らかく輝く髪を。
幾度となく重ねた唇を。
小さな両肩を。
抱きしめた柔らかく、小さな身体を。
自分を見つめてくるあの瞳を。
「愛してるんだ…アニュー…
だから…戻ってこい…俺のもとへ…」
ライルが誰にも聞き取られる事のない決意を声にした時、
館内にフェルトの声が響く。
「Eセンサーに反応。
…速度から…敵部隊と予測されます!」
俯いていたライルの表情が険しくなる。
後にも先にもチャンスは一度。
決して逃さないと言う決意の表情を浮かべていた。
「…アニュー…!」
ライルは、今一度愛しい女性の名を
静かに、はっきりと呼んだ。
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ライルの男心を書こうと奮戦しましたが…玉砕してるかもです…orz
失礼しました〜。ばたり。
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