「ダブルオーのコクピットに入っていた。
君が持っているといい。」
そう言ってティエリアがテーブルの上に置いたもの。
古くからある一丁の拳銃。
「…コルト…ガバメント…1911(nineteen-eleven)…」
「コクピットシートの下に隠してあった。
お父さんの所持品だったものだ。
あの時、燃やせなかったものがこんなところにあったな。
まだ手入れをすれば使えそうだ。」
その銃はかなり使い込まれている様子がうかがえる。
本来のハンドルから、グリップ力の高い
ラバーハンドルに付け替えられている。
それをすればロックが機能しなくなるが、
それを敢えてつけているのであろう。
サイトにも使いやすい様に弄った後が見受けられる。
「イシス…どうする?これも燃やすのか?」
苦笑しながらティエリアは少しの意地悪を含めてイシスの顔を見る。
「…いや…これは貰っておく。
スペアマガジンまであるんだ…珍しいな…ロングタイプだなんて。」
イシスはテーブルにある2つのマガジンを見比べた。
「君が所持、管理をするなら
後ほど担当部署に申請するといい。
ミッションの際には弾を渡してもらえる。」
「…わかった。じゃあ、マガジンは置いていく、
本体は部屋へ持っていって構わないか?」
「ああ、もとからそのつもりで君を呼んだんだ。
持っていくといい。お父さんの置き土産って所だな。」
軽く笑顔を見せたティエリアに少し驚きながらも
イシスはティエリアの部屋を後にした。
「イシス。ちょっと…いいか?」
ティエリアの部屋を出て自室に向かうイシスに
スェウが声をかける。
__________________________________
イシスが去った後、ドアからテーブルの上のマガジンへと
ティエリアの視線が動く。
ティエリアの視線は自然と刹那の残したマガジンへと向かっていた。
手に取ろうとした時、ふと、ロングマガジンの角に
小さく文字が刻まれているのが見えた。
「…ん…?」
刹那は…何を刻んだんだろうか?
いぶかしんだティエリアはマガジンを手に取り、
小さく擦れた文字を凝視した。
筆跡や、持ち主の事を考えると、
刹那が刻んだ文字であるだろう事は察する事が出来る。
鋭利なものを使い、手書きで書かれているその文字は
ある女性の名前が書かれていた。
『
M A R I N A』
「…刹那…」
ティエリアはやるせない気持ちで
持ち主であった彼の名を呟いた。
_________________________________________
「スェウ…どうした?」
呼び止めたのはいいものの、
どう話していいやら言葉を選んでいる様に口ごもるスェウに
イシスがいぶかしむ様にスェウを呼んだ。
「ちょっと…話…したいんだけど…時間、あるか?」
戸惑いながらスェウが誘いの言葉をかける。
「ああ…構わないよ。」
「じゃあ…部屋ってのもなんだからな…展望室空いてるかな?」
「居住区に近い展望室なら、いつも人がいない。」
イシスに言われるまでスェウも忘れかけていた展望室の名を告げられ
意外だとスェウは少し驚いた。
「ああ…あそこか…お前良く知ってたな?」
「たまに行くんだ。誰もいないし、いい気分転換になるから。」
2人は、小さな展望室にたどり着いていた。
時間的な事もあってか、その場所に人影はなかった。
「話って…昨日のか?」
「うん…それなんだけど…」
やはり、言いづらい話なのか、スェウは口ごもっていた。
「言いづらい事なのか?」
イシスが切り出すと、スェウは困惑を隠さなかった。
「ええ…?…うーん…そうだな…
ここで今更モゴモゴしてても仕方ないよな。」
意を決した様にスェウが呟く。
「父さんから…聞いたんだ。
イシスのお父さんの事…
父さんの兄…俺のおじさんにあたる人の事。
2人と関わった刹那・F・セイエイの事…。」
「子供である俺たちには判らない事が多すぎる。
でも、だから俺は…
今俺の知らない父さんを捜してるんだ。
もう…返事はもらえないし、
声を聞いてもらう事も出来ないから。」
展望室でスェウと並んで外を見ていたイシスが
スェウに向き直りながら静かに口を開く。
「スェウは、何を聞いて、
それをどう感じたか聞きたい。
同じ、マイスターの子供としての立場だから、
だからこそ見えるところがあるんじゃないかと思う。」
スェウがイシスを見つめる。
イシスの目は揺らぎなく自分を見る。
その真っ直ぐな揺らぎのない視線に惹き込まれる。
「俺は…刹那という人物をしらない。
父さんやアレルヤ、ティエリアから聞いた話しか知らない。
それで、人をどうこう言うのは失礼かもしれないけど…
おれは、お前がガンダムマイスターになる時には
父親とは違う『刹那』になっていて欲しいと思う。」
「それは…どういう…?」
イシスの疑問を打ち消す様にスェウは言葉を続ける。
「お前の父さんって…ずるいよ。」
「ずるい…?」
「だってさ…父さんの兄、
ニール・ディランディの死を目の前にして
それでも…だからこそずっと戦い続けて…
父さんまで巻き込んで…
その時、父さんが愛した女性を…
仕方ない事とは言え…命を奪った!
それを全て背負い込んで…姿を消して…!
自分の子供にまで…戦いを…!!」
「スェウ!!」
言葉にしだすと止まらなくなっていたスェウは
いつの間にか声を大きくしていたらしい。
イシスの制止の声でスェウははっと我に返る。
「ここに来たのは俺自身の意志だ。
それは判って欲しい。」
イシスは真っ直ぐにスェウを見つめてはっきりと言う。
「スェウだって…同じだろう?
親の意志じゃあない。
自分の意志でソレスタルビーイングにいる。
誰だってそうだ。
俺も、いやなら何が何でもここには来ていない。」
クスリと笑いながら自分を見るイシスに
少し女の子らしさを見いだしながら
スェウは頭に手をやり、うーん。と唸りながらも
言葉を続ける。
「…心配なんだ。」
「ガンダムに乗る事が?」
「いや、お前がだよ。」
「……はぁっ!?!?」
スェウの発言に意表をつかれたイシスは
大きな目を更に丸くして素っ頓狂な声を上げた。
「…そんなに信用無いのか…俺…?
まだ実力が足りないからか…?」
「違う!そうじゃないんだ…」
拗ねたようなイシスにスェウが直ぐに否定の言葉を重ねる。
PR