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「なんか…お前ってさ…ほっとけないのな…」
「…どういう意味だよ。」
「なんだろう…?そこが俺自身も判んないからさ…
言っていいのか…凄く悩んでるんだけどな」
うーん、と頭を抱える様に俯くスェウが
いきなり顔を上げた。
「うっし!気分変えよう!!
俺、なんか飲み物とってくる!
イシスもいるか?」
突拍子もないスェウにイシスは丸くした目をぱちぱちを瞬きさせて
イシスはスェウの好意をやんわりと断った。
「や…おれは…いい。
スェウ…行ってきたらいいよ。
また、考えまとまったら…聞かせて。」
目を細め、スェウににこりと微笑むイシスを
今度はスェウが目を丸くして見つめた。
スェウは自分の鼓動が少しだけあがっていくのを感じた。
「え…? あ…? ああ…。
また、話する。
…呼び出して悪かった。」
慌ててイシスから目をそらし
その場を取り繕うと焦る。
「?問題ないよ。
また、ゆっくり話聞かせてくれ。」
イシスがゆっくり微笑みながら返事をするのを見ると、
スェウは少し名残惜しいのを感じつつ
展望室を後にした。
展望室を出て行くスェウの背中を視線で追いかけ、
通路の角を曲がったスェウが視界から消えたのを見届けてから
背中を預けていた展望室のガラス窓へと振り返る。
視界に上下、前後の無い宇宙空間が広がる。
無であり、有を生じさせる空間。
父が死闘を繰り広げたであろう空間。
流れていくスペース・デブリは
そこに様々なドラマが繰り広げられた事を
静かに物語っていた。
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居住区の自室へ戻ろうと、通路の角を曲がったライルの前に
見慣れた人影が飛び込んで来た。
「!!スェウ!」
「父さん!」
危うくぶつかりそうになった親子は寸でのところで難を逃れる。
「…?どうした?スェウ?」
「………は?…何が?」
息子の顔を覗き込み、ライルが息子に疑問を投げかける。
「…顔が赤いぞ?」
「へ?…えぇぇ?」
父親に指摘され、
ようやく自分が顔を赤らめている事に気付いたスェウは
その指摘によってますます顔を赤くする。
その反応を目の当たりにしたライルは
イタズラっぽくニヤリと笑みを浮かべた。
「なんかあったのかな?
言ってみろ、スェウ君?」
「ーーーーー!
……何でもないよ!!」
おちょくりだした父親を振り切り、
スェウは通路を駆け出した。
ライルは成長した我が子の背中を眺めながら
小さく溜息をついていた。
息子とぶつかりそうになった角を曲がり、
何気に居住区の奥にある展望室へと向かったライルは
展望室へ近づくにつれ、そこに先客がいるのを知った。
小さく、囁く様に
ゆったりとした歌が聞こえる。
…And the soul afraid of dyin'
That never learns to live
中性的なアルトの歌声に近づいてみると
見慣れた後ろ姿が視界に入る。
歌の主はライルに気付かないのか
ゆっくりと、小さな声で
古い歌を歌っている。
When the night has been too lonely
And the road has been too long
And you think that love is only
For the lucky and the strong…
ライルは気付かれないよう
宇宙空間を眺めながら歌う人影を
展望室の入り口でそっと眺めていた。
Just remember in the winter
Far beneath the bitter snows
Lies the seed that with the sun's love
In the spring becomes the rose…
.
「…ライル…?」
「なんだ、気付いてたのか。」
「…途中から。」
振り返りながら照れくさそうにイシスが微笑む。
「…古い歌だな。」
「うん。」
「…悪くない。」
「…うん。」
静かにぽつり、ぽつりと会話が始まる。
「『死を恐れていては 生きる事の意味を学べない』
…か…。」
「大事な事だよ。胸を張って生きなければ
胸を張って死ねない。
胸を張って死ぬんだったら、生きてるうちに
生きてる意味を、答えを知らなくちゃ。」
イシスが真っ直ぐな瞳をライルに向けて
自分の生きる意味を模索している心境を話した。
『生きる』事に真っ直ぐな目の前の子供に
ガンダムに載せる訓練をさせている自分がいる事に
微かな戸惑いを感じ、イシスに問う様に言葉を投げかける。
「俺たちは、今まで…
そして、お前達は…これから。
宇宙、地上、世界じゅうの第一線で
ガンダムに乗って、命をさらけ出して戦う。
答えが出る前に命を落とす事だってあるぞ。」
ライルの疑問にイシスはライルを見遣る事なく
展望室のガラス越しにある空間を見つめながら答えた。
「うん…。
それでも…生きて…戦う。
そこに…『答え』があるから。
父さんが生きて、俺が生まれた『答え』が。」
「『答え』を探すのか…。」
「うん。自分の『生きる』答えを探すんだ。」
「…そうか…。
『答え』が見つかったら教えてくれ。」
イシスの言葉に少し微笑みながら
ライルはイシスの柔らかな黒髪を軽くポンポンとたたく。
かつて、そこにいる人物の兄と父親がそうしていたであろう様に。
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今回は、イシスに歌を歌わせました。
この歌、ご存知の方も多いかとは思いますが
一部分だけの抜粋なので、
『何の歌???』と思われる方がおられるかと思いますので
ここで少し紹介しておきます。
『The Rose』と言う歌なのですが
いろんな方がカヴァーされているので
動画サイト等で検索してみるといいかと思います。
イシスが歌って、ライルが耳にした行は
途中、『死を恐れていては、生きる事の意味を学べない』
という辺りからになりますが、
全体の歌詞の意味も知って頂きたいと思ったので
歌詞と対訳を掲載させて頂きます。
『The Rose』
詞・曲:Amanda McBroom 歌:Bette Midler
Some say love it is a river
That drowns the tender reed
Some say love it is a razor
That leaves your soul to bleed
Some say love it is a hunger
And endless aching need
I say love it is a flower
And you its only seed
It's the heart afraid of breakin'
That never learns to dance
It's the dream afraid of wakin'
That never takes the chance
It's the one who won't be taken
Who cannot seem to give
And the soul afraid of dyin'
That never learns to live
When the night has been too lonely
And the road has been too long
And you think that love is only
For the lucky and the strong
Just remember in the winter
Far beneath the bitter snows
Lies the seed that with the sun's love
In the spring becomes the rose
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訳:青山 様
人は言う 愛は濁った川の流れのようだと
弱く傷つきやすい人を飲み込んでしまうと
人は言う 愛は冷たい刃のようだと
人の心を容赦なく切りつけると
人は言う 愛は飢えのようだと
どれだけ求めても満ち足りることのないものだと
私は言うわ 愛は花だと
そしてその大切な種が、あなたなのだと
傷つくことを恐れる心では、
楽しく舞うことができない
夢から覚めることを恐れていては、
チャンスをつかむことができない
奪われることを拒む臆病者は、
与える優しさを知ることがない
死を恐れていては、
生きることの意味を学べない
ひとりで寂しく過ごす夜や、
目の前の道を遠く長く感じるとき、
また、愛は心と運の強い人にしか
やって来ないものだと思ってしまうとき、
どうか思い出して
厳しい冬、冷たい雪の下で寒さにじっと耐える種こそが、
暖かい太陽の恵みを小さな体いっぱいに受けて、
春、美しい薔薇になれるのだということを
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